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横浜地方裁判所 平成6年(行ウ)15号 判決

原告

有馬静則(X)

(ほか一三名)

右一三名訴訟代理人弁護士

岡村共栄

三村厚行

被告

(元秦野市長) 柏木幹雄(Y1)

参加人

秦野市長 二宮忠夫

右両名訴訟代理人弁護士

三川昭徳

被告

丸栄開発株式会社(Y2)

右代表者代表取締役

伊藤行成

右訴訟代理人弁護士

矢加部一甫

被告

国(Y3)

右代表者法務大臣

中村正三郎

右指定代理人

齋藤紀子

松田良宣

勝又清

菅野勝雄

宇山聡

山口正志

春日茂

島田和彦

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第三 当裁判所の判断

一  本案前の争点(監査請求前置)について

地自法二四二条の二第一項は、監査請求の対象とした同法二四二条一項所定の財務会計上の行為又は怠る事実について住民訴訟を提起すべきものと定めているが、住民が監査請求において求めた具体的措置の相手方と同一の者を相手方として右措置と同一の請求内容による住民訴訟を提起しなければならないとまでは定めていない。また、地方公共団体の住民は、監査請求をする際、監査の対象である財務会計上の行為又は怠る事実を特定して必要な措置を講ずべきことを請求すれば足り、措置の内容及び相手方を具体的に明示することは必須ではなく、仮に執るべき措置内容等が具体的に明示されている場合でも、監査委員は監査請求に理由があると認めるときは、明示された措置内容に拘束されずに必要な措置を講ずることができると解されるから、監査請求前置の要件を判断するために、監査請求書に記載された具体的な措置の内容及び相手方を吟味する必要はないといわなければならない。そうすると、住民訴訟においては、その対象とする財務会計上の行為又は怠る事実について監査請求を経ていると認められる限り、監査請求において求められた具体的措置の相手方とは異なる者を相手方として右措置の内容と異なる請求をすることも許されると解すべきである(最高裁判所第二小法廷平成一〇年七月三日判決・判例時報一六五二号六五頁参照)。

これを本件についてみるに、前記争いのない事実によれば、本件監査請求においては、財務会計上の行為として被告柏木による本件土地の譲渡が明示されており、本件訴えにおいてもその点に変わりはないから、本訴において、原告らが新たに被告国に対する請求を追加したからといって、これが監査請求前置の要件に欠けるということはできない。したがって、原告らの被告国に対する訴えは適法というべきである。

二  本案の争点2(本件土地譲渡の無効)について

1  前記争いのない事実及び〔証拠略〕によれば、以下の事実が認められる。

(一)  本件土地の所在等

本件土地は、秦野市が小田急電鉄株式会社の開発したくずは台団地の土地開発事業の完了に伴い、自然環境用地等として、昭和五一年七月ころ、寄付を受け、同市の普通財産に編入されたものの一部である。秦野市は、昭和五二年一二月二〇日、これらの土地のうち秦野市東田原くずは台二〇〇番三七九ほか五筆の土地(合計一万二九五二・七三平方メートル)を緑地に指定し、行政財産に編入した。本件土地はその一部であり、葛葉川の左岸(北側)に位置していた。

(二)  秦野市のアメニティ・タウン計画等

秦野市は、昭和六〇年四月一七日、環境庁の快適環境整備計画(アメニテイ・タウン計画)策定地域の指定を受け、昭和六一年三月二〇日、秦野アメニティ・タウン計画を策定した。この秦野アメニティ・タウン計画は、住み心地の良いまちづくりを目指すことを目的とし、二一のシンボル事業計画からなるものであり、その中心的な事業として、「葛葉川ふるさと峡谷整備計画」(以下「本件整備計画」という。)が存在している。これは、秦野市を蛇行して流れる葛葉川とそれを取り巻く斜面樹林により構成される葛葉川峡谷一帯(約一七ヘクタール)の緑地を保全し、そこを市民が自然と触れあえる身近な憩いの場として整備することを目的として、昭和六三年六月一〇日決定された。本件土地は、その整備計画地内に存在している。秦野市は、本件整備計画決定以降、右地域内の私有地を約四億七五〇〇万円で購入するなどして、右計画の実現に向け努力している。

また、葛葉川峡谷一帯の緑地は、財団法人みどりのまち・かながわ県民会議により、昭和六一年、トラスト一号地に指定された。これは、緑地を残すためのトラスト運動を進めている財団法人みどりのまち・かながわ県民会議が、市町村と協議して保全にふさわしい緑地を選び、該当の土地所有者との間で緑地保存契約を締結することによって、緑地を保全していこうとする運動の一環として、葛葉川一帯の緑地をその対象土地に指定したものである。

(三)  被告丸栄開発の開発計画と秦野市の対応

しかし、本件整備計画地域は、小田急小田原線秦野駅から約一・五キロメートル北西に位置する市街化区域(第一種住居専用地域ないし住居地域)内にあり、土地開発が可能である。このため、被告丸栄開発は、昭和六〇年から平成四年にかけて、本件整備計画地域内に順次土地を取得し、最終的に、葛葉川をはさんでA、B、C、Dの四ブロック(〔証拠略〕)に点在して土地を所有するに至った。被告丸栄開発は、これら四ブロックに分譲マンションを建築する計画を立て、昭和六一年ころから、葛葉川の河川管理者である神奈川県知事に、開発計画についての相談を行い、昭和六二年九月三〇日には、秦野市に、右開発行為の事前相談書を提出した。秦野市は、被告丸栄開発に対し、前記の秦野アメニティ・タウン計画の考えを示し、その指導事項を伝え、本件整備計画が決定(昭和六三年六月一〇日)された後は、右の開発計画を断念するよう要請した。しかし、被告丸栄開発は、これに従おうとせず、逆に秦野市に対し、秦野市開発指導要綱に基づく開発行為等事前協議書を提出してその受理を求めるに至った。秦野市は、これを開発行為等事前相談書として受理し、被告丸栄開発の分譲マンション計画と秦野アメニテイ・タウン計画との整合性を図るべく検討した結果、被告丸栄開発に対しては、秦野アメニティ・タウン計画に協力してもらうことを条件に、分譲マンション計画を認めるほかはないという結論に達した。

ところが、平成元年六月、秦野市議会の六月定例本会議において、葛葉川峡谷整備促進についての陳青が賛成多数で採択されたため、秦野市は、右陳情を尊重する上から、被告丸栄開発に対し分譲マンション計画を断念するよう求めたが、被告丸栄開発は、弁護士を代理人に立て、秦野市に対し、平成二年一月三一日付けの内容証明郵便で、開発行為の協議を行うよう要望した。そこで、秦野市は、秦野アメニティ・タウン計画を実現するには、被告丸栄開発の所有地を買収するほかはないと考え、平成二年八月二〇日、被告丸栄開発の代理人である弁護士に、被告丸栄開発の所有地を三億〇七二九万六〇〇〇円で買収したい旨の申入れをし、その後、秦野市と被告丸栄開発との間で、買収価格を巡って何度か交渉が持たれたが、両者の価格に開きがあり、結局、秦野市が被告丸栄開発の所有地を買収する計画は平成三年二月ころ頓挫するに至った。

(四)  被告丸栄開発の開発許可(ショートカット方式による河川法線の採用)

このように、秦野市は、被告丸栄開発の開発行為を法的に規制することができないため、やむなく、被告丸栄開発の分譲マンション計画を容認した上で、秦野市開発指導要綱に基づく行政指導を行うことによって、できるだけ多くの緑地や公共施設を確保するという手法で対処せざるを得ないと判断するに至った。そこで、秦野市は、平成三年五月一三日、河川管理者である神奈川県知事を訪ね、その意向を尋ねたところ、大要、以下のような回答を得た。

(1) 被告丸栄開発所有地をA、B、C、Dの四ブロックに分けて開発する前提で河川整備を行うと、A、B、C、Dの各ブロックまで河川を拡げて護岸工事を行うことになるため、河川法線が鋭角的になり(〔証拠略〕)、洪水等の危険性が増大する。また、葛葉川について、管理者の指定する河川幅(両岸の幅員各三メートルの管理道路を含め二九メートル)にして、従来の河川に沿った蛇行型の整備を行うと、全体に占める河川の面積が多くなり、結果として緑地等の面積は減じられ、自然を破壊する部分も多くなる。このため、神奈川県知事は、蛇行した葛葉川の河川法線をショートカットし、新河川の付け替え工事を行うのが望ましいと考えている。

(2) 神奈川県知事は、平成四年五月以降、右のように、葛葉川の河川法線をショートカットすることを前提として、被告丸栄開発に対し、神奈川県知事が河川管理者として都市計画法三二条に基づく同意を与えるに当たっては、ショートカットにより新たに河川区域となる秦野市所有の土地をあらかじめ被告丸栄開発において取得し、これを、その後国との間で、河川法九二条に基づき、旧河川敷の土地と交換するように行政指導をしている。

(3) 被告丸栄開発は、ショートカットによる河川付け替え工事を河川法二〇条に基づき自費で行う予定でおり、神奈川県知事はこれを承認する意向である。

(4) 被告丸栄開発がショートカットによる河川付け替え工事を行う場合、現行河川を一時廃止し、通水止めにするという手段を採ることは不可能であり、新河川をあらかじめ先に造っておかなければならない。また、新河川通水後は、その部分の土地は、河川法六条一項一号、二号により直ちに河川区域になるので、被告丸栄開発が神奈川県知事に河川付け替え工事の申請をするに当たっては、新しく河川になる区域の土地を国(建設省)名義にしておく必要がある。

秦野市は、被告丸栄開発の分譲マンション建築計画を禁止することが法律上不可能である以上、右建築を認める中でできるだけ多くの緑地を確保する方針の下に、右のような神奈川県知事の意向も踏まえて検討した結果、A、B、C、Dの四ブロックに分けて開発する方式を採るよりも、葛葉川の河川法線をショートカットし(〔証拠略〕)、被告丸栄開発の分譲マンションの建築地をAブロック一か所に集約させた方が、マンション自体は高層になり、景観は阻害されても、上流の将来の自然環境悪化を阻止できる等全体としては好ましいとの判断に達した。そこで、秦野市は、右のような方向で被告丸栄開発と協議を開始し、その同意を得た。その協議の過程で、秦野市は、被告丸栄開発から、ショートカット方式を採りマンション敷地を一か所に集約した場合、一部の所有地を秦野市に寄付するので、その代わりに河川区域となる本件土地を払い下げてほしいと要望された。秦野市は、神奈川県知事がこの要望を容認する意向でいたことなどから、被告丸栄開発の要望を受け入れることにし、本件土地の払下げの実施に向けて、平成四年八月二八日、本件土地の緑地指定を解除した。

(五)  本件土地の譲渡

その後、秦野市長は、平成四年九月四日、被告丸栄開発が秦野市曽屋字三本松一八二六番一ほかの地域(三万〇六一〇・六一平方メートル)において行う丸栄開発葛葉マンション建築事業について、都市計画法三二条に基づき、当該開発行為に関係のある公共施設の管理者として同意し、同日、被告丸栄開発との間で、当該開発行為について設置される公共施設の管理等について、「開発行為等の施行に関する協定書」(以下「本件協定書」という。)による協議を成立させた。本件協定書は、被告丸栄開発が神奈川県知事の承認を受けて、蛇行する葛葉川をショートカットした新河川を設置する工事を行うことを前提として、右の新河川及びその両岸を開発施行区域と定め、その右岸(南側)をマンション敷地とし、その左岸一帯を緑地(市有地)にすることを内容とし、後に被告丸栄開発が左岸の所有地(後記の寄付地)を緑地化した上秦野市に寄付し、秦野市はこれを緑地に編入するものとしていた。そして、被告丸栄開発は、同日、秦野市長に対し、都市計画法二九条に基づく開発許可の申請書を提出し、被告柏木は、秦野市長として、同日、これを許可した。

被告丸栄開発は、引き続き、平成四年一一月三〇日、神奈川県知事から、葛葉川の河川付け替え工事を行うことについて、工事完了後河川の用地、護岸等を速やかに河川管理者に帰属させることを条件に、河川法二〇条に基づく承認を受けた。

被告丸栄開発は、平成五年一月、本件開発区域において、河川付け替え工事に着手し、同年七月これを完成させた。

秦野市は、右の工事が完成したため、被告丸栄開発から出されていた「土地の寄附にかかる申入れ及び市有地の譲渡にかかるお願いについて」と題する文書(平成四年一〇月二六日付け)による寄付地の寄付の申入れと、本件土地払下げの申入れについて検討した結果、平成五年一二月二日、寄付地の受入れを決定し、これを普通財産に編入し、次いで、同月一四日、本件土地を代金六七一万一四九七円で被告丸栄開発に譲渡し、同月一五日、所有権移転登記を了した。秦野市は、本件土地の譲渡については、本件条例三条四号を適用し、議会の議決を経由せず、かつ、代金は不動産鑑定士の不動産鑑定価格を参考にして、時価よりも低い価額(一平方メートル当たり一万四三一九円)に設定した。

(六)  被告国の本件土地取得

被告国は、平成六年一月二七日、被告丸栄開発との間で、葛葉川のショートカットにより廃川敷地となった被告国所有の土地と、本件土地とを交換した。そして、被告国は、同年二月四日、本件土地の所有権移転登記を了した。

(七)  被告丸栄開発のその後の開発行為

被告丸栄開発は、その後資金難に陥り、開発行為を中断し、マンション建築は未だされていない。このため、寄付地の植林も未だ行われておらず、緑地指定もされていない。

以上のとおり認められ、〔証拠略〕及び同原告本人尋問の結果中、右認定に反する部分は前掲各証拠に照らしたやすく採用することができず、他にこれを動かすに足りる証拠はない。

2  そこで、以上の事実関係を前提として、本件土地の譲渡が無効か否かについて検討する。

(一)  まず、秦野市が本件土地を本件条例三条四号を適用して譲渡したことが違法、無効かどうかについて判断する。

(1) 本件条例三条四号は、第二の一4(三)のとおり定めているが、これは、行政財産の用途に供し得る財産が寄付されたことを重視して、このような寄付者に対し、議会の議決を経ることなく、用途廃止に係る普通財産を時価よりも低い価額で譲渡すること等の恩典を認めた規定であり、典型例として、学校用地として適当な土地の寄付があったため、旧来の学校用地を用途廃止し、これを寄付者に低廉な価額で譲渡するなどの場合が挙げられる。したがって、本号が適用されるというためには、行政財産の用途廃止をする必要がある場合で、かつ、右用途廃止をする財産に代わり、新たに行政財産の用に供し得る財産が寄付された場合であることが必要である。本件の場合、前記認定のとおり、秦野市は、旧来の蛇行した葛葉川をそのまま残して、その両側に点在する被告丸栄開発の四ブロックの所有地を各別に開発することを認めるよりは、蛇行した河川法線をショートカットし、これを緩やかなものに付け替えるとともに、被告丸栄開発のマンション建築を一か所に集中させることによって、自然環境の保全と治水の安全性が確保されると考え、まず、ショートカットによる河川の付け替え工事により新たに河川区域となる本件土地の緑地指定を解除し、これに代わる土地として、将来開発行為を行う中で緑地指定されることが見込まれる土地(寄付地)の寄付を受けたのであるから、被告柏木が被告丸栄開発に対してした本件土地の譲渡(払下げ)に本件条例三条四号を適用することは、同号の規定の趣旨には沿うものということができる。

(2) 原告らは、本件条例三条四号の適用があるというためには、行政財産の用途廃止の前に寄付が先行することが必要であると主張し、本件の場合、寄付に先立ち本件土地の用途廃止が行われ、しかる後に寄付地の寄付が行われているから、本件条例三条四号の適用はなく、これを適用してした本件土地の譲渡は違法、無効であると主張する。

確かに、本件条例三条四号が適用されるのは、通常、まず財産の寄付があって、しかる後に行政財産の用途廃止が行われるであろうが、本件のように、河川の付け替え工事の性質上新河川となる部分を先に造らなければならないために(1(四)(4)参照)寄付に先立ち譲渡すべき行政財産の用途廃止をする必要があり、かつ、当該寄付が確実に見込まれる場合において、用途廃止後の普通財産の譲渡自体は寄付後に行うこととするときは、寄付財産を取得できなくなるといった実害を被るおそれはなく、同号の適用があると解するのが相当である。けだし、そのような場合と、寄付を受けた後に行政財産の用途廃止をしてこれを譲渡する場合とで、結果面において格別の差異を見い出すことはできないし、本号の文理解釈上は、寄付が先行する場合を予定しているといえるが、趣旨解釈あるいは目的解釈によれば、右のように解釈することが許されないとはいえないからである。

(3) また、原告らは、本件条例三条四号の適用があるというためには、用途廃止された行政財産と寄付された財産との間に代替性がなければならないとし、本件の場合、寄付地は本件土地と比べ自然林がなく、本件土地との代替性がないと主張する。しかし、もともと寄付地は行政財産となることを予定して寄付がされるにとどまり、譲渡人において行政財産にしてから寄付をするということはもとより性質上できないことである。本件では、緑地化したものを寄付するという協定内容であったので、秦野市とすれば、直ちに緑地の指定だけすれば行政財産になるものの寄付を受ける予定であったところ、被告丸栄開発が事実行為としての緑地化をすることをしないまま寄付をしているのであるが(〔証拠略〕)、寄付地は、後に植林した段階で緑地指定することも可能であるから、現在寄付地に自然林がないからといって、寄付地が本件土地に代わり得ないということはできない。なお、前記認定のように、寄付地は、その後の被告丸栄開発の都合により、開発行為が中断し、未だ緑地指定がされていないけれども、それは本件土地の譲渡がされた後に生じた事情であり、当時からそのような事情が見込まれたわけではないから、現段階でまだ寄付地の緑地指定がされていないからといって、そのことから直ちに本件土地の譲渡が無効となるものとはいえない。

(4) 以上のとおりであり、本件条例三条四号を適用して本件土地の譲渡をしたことは適法というべきであり、この点に関する原告らの主張は採用することができない。

(二)  次に、原告らは、蛇行した葛葉川をショートカットし、河川法線を付け替えることは、自然環境を破壊するものであり、秦野市が本件整備計画を策定し、その実現に向け努力していることに反する行為であるから、このような行為に道を開くことになる本件土地の譲渡は、地方財政法八条に違反し、無効であると主張する。

しかし、前記認定のとおり、被告丸栄開発による開発行為を全面的に阻止することは不可能なのであり、次善の策として、秦野市が、ショートカット方式により、葛葉川の河川法線を緩やかにして治水上の安全を図り、かつ、マンションの建築地を一か所に集中させて、周囲に緑地等を配することにして、できるだけ自然環境の保全を図ろうとしたことは相当であり、これをもって直ちに、自然を破壊する行為であるとか、本件整備計画にもとる行為であるとかいうことはできない。また、葛葉川峡谷の自然をそのままの形で残すことが一番望ましいにしても、開発行為が避けられない以上、行政指導を駆使して、なるべく自然を残す形で開発を認めていくこともやむを得ないというべきであって、それによりいくらかでも自然が破壊されるからといって、直ちにこれを地方財政法八条に違反すると主張するのは、失当というべきである。

なお、この点に関し、原告有馬静則は、〔証拠略〕において、被告柏木が秦野市長として本件土地を譲渡しなければ、被告丸栄開発は、河川の両岸に分散して所有していた四ブロックの土地について、個々に開発行為を遂行せざるを得ず、しかも河川改修に多額の費用を必要とするため、結局開発計画を断念せざるを得なかったはずであり、当時このことを被告柏木も知り得たはずであると供述する。しかし、前記認定の事実によれば、多額の買収資金を投入していた被告丸栄開発は、秦野市から同被告の満足する価格で既存の全買収地を買い取って貰えるようなことでもない限り、採算上、秦野市の行政指導がいくらなされても、四ブロックに点在する所有地の全部を開発する計画を強行せざるを得ないとしていたのであり、たとえ秦野市が本件土地を被告丸栄開発に譲渡しなくとも、被告丸栄開発は開発行為を行っていたものと認められる。したがって、原告有馬の右供述部分は、たやすく採用することができない。

3  そうすると、被告柏木が秦野市長として本件土地を被告丸栄開発に譲渡したことに原告らの主張するような違法、無効があるとはいえないから、本件土地について被告丸栄開発にされた所有権移転登記は有効であり、また、被告丸栄開発から本件土地の譲渡を受けた被告国の所有権移転登記も有効であって、これらの被告に、所有権移転登記の抹消登記義務はないといわなければならない。

三  本案の争点3(被告柏木及び同丸栄開発の不法行為責任)について

右にみたように、被告柏木が秦野市長として本件土地を被告丸栄開発に譲渡したのは、河川の付け替え工事が完成した暁には本件土地が新たな河川区域となり、廃川敷地との交換が予定されていたからであり、本件土地の譲渡は、正当な行為として是認でき、これをもって違法な行為であると認めることはできない。したがって、秦野市から本件土地を買い受けた被告丸栄開発についても、その行為をもって違法と認めることはできない。

よって、被告柏木及び被告丸栄開発に不法行為責任があるとする原告らの主張は採用することができない。

四  結論

そうすると、その余の点について判断するまでもなく、原告らの本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡光民雄 裁判官 近藤壽邦 近藤裕之)

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